2022年11月、奈良県奈良市水門町にある「入江泰吉旧居」を訪ねました。
「入江泰吉旧居」は、奈良の写真家・入江泰吉(1905~1992)が終の住処とした住宅。
玄関らしきものがないのでちょっとびっくりしたんですが、
これはもともと寺院の塔頭として使われていた建物を移築したためなんだとか。
脱いだ靴を靴脱石の下に揃えて部屋に上がり、受付で入館料200円を支払いました。「撮影しても大丈夫ですよ」と声をかけてくださった係員さんが、
書斎やアトリエなど各部屋を順番に案内してくださいました。感謝。
画家を志していた入江泰吉。
「絵では食べていけない」と家族に反対されて
絵の道をあきらめたのですが、
お兄さんからコダック・カメラを譲り受けたことがきっかけとなり
写真家になりました。
確かに絵で生活するのは難しいかもしれませんが、
写真の道も容易ではないと思います。
ただ、入江泰吉が写真家として活躍した頃は、
カメラの希少価値が今より高かったはずなので、
当時は絵より写真の方が職業にしやすかったかもしれません・・。
しかし、貴重なコダック・カメラを弟にポンと譲ったお兄さん、気前がいいですね。
このお兄さんがいなければ写真家・入江泰吉は誕生しなかったかもしれません。
入江泰吉は、1931(昭和6)年に、大阪市内で写真店「光芸社」を開業。
文楽人形を撮影した「春の文楽」で、世界移動写真展一等賞を受賞しました。
戦後は、故郷の奈良に拠点を移し、
生涯にわたり奈良大和路を撮り続けたわけですから、
やはり写真家が天職だったのでしょう。
客間に展示されていた写真集。規格外の大きさに度肝を抜かれました。
座布団1枚半ぐらいの面積はあったと思います。
自由に閲覧できたのでページをめくってみたのですが、
腕を伸ばして大きく動かさないとページをめくれない写真集に出会ったのは
初めてです。
ちなみに、この巨大な写真集の価格は約30万円。お値段も規格外です。
旧居がある水門町は、東大寺旧境内。
自然を愛する入江氏は旧居の窓から風景を眺めることを日課としていました。
窓際に特注の洒落た木製テーブルと椅子を置いて、
吉城川畔に広がる四季折々の風景を楽しんでいたそうですよ。
建物自体は相当古いものだと思うんですが、大きな窓から差し込む光が室内を明るく照らしていました。家の中でくつろぎながら豊かな自然を観察できるって本当にいいですね。こんな家に住んでみたいものです。
志賀直哉や白洲正子など美意識が高そうな文化人が来訪。
文豪・志賀直哉が座ったかもしれない客間のソファにも
自由に腰掛けることができたので、腰を降ろしてちょっと休憩。
絵の方も完全に筆を折ったわけではなく、趣味でガラス絵などの小品を描いていました。アトリエに展示されていた愛用の筆と絵具は使い込まれていました。
入江氏が描いた、文楽人形をモチーフとしたガラス絵。趣味の域を超えているような気もします。
庭に降り積もった落ち葉。小さな石仏がさりげなく置かれていました。
閉館時間が迫ってきたので裏庭の小川沿いの飛び石通路を歩いて、裏木戸から退出。短い滞在時間でしたが、風情ある旧居の住人になったような気分を味わえました。
(2022年11月撮影 機材:Canon EOS M6、CANON EOS RP)
■参考資料:入江泰吉旧居 公式サイト