狭い路地の奥に佇む小さな町家。その入口に掲げられた木製の看板に筆文字で「奈良町からくりおもちゃ館」と書かれていました。江戸時代の子供たちが遊んでいたおもちゃを展示している施設です。中をのぞくと「どうぞお入り下さい」と穏やかな声が。入館料についてたずねるとなんと無料でした。
伝統的な町家空間になじむ低い文机の上にからくりおもちゃ(レプリカ)がずらり。昔の子供たちと同じように畳の上で正座して、おもちゃを手にとって遊べます。おもちゃの由来や仕組みなどを、施設の職員さんが丁寧に說明して下さいました。
「鐘打ち人形」
箱を一回転させると砂が落下して、箱の中に仕込まれた羽や竹筒を動かし、お寺の小僧さん人形が鐘を打つという仕組み。実際に箱を一回転させるとかなり長い時間、鐘を打ち続けていました。
「板ずもう」
丸棒を動かすと力士が相撲をとる動作をします。ゆらゆらとした手足の動きが江戸時代の子供たちを夢中にさせたことでしょう。
「猫とねずみ」
箱のふたを引くと箱の中からねずみが出てきます。閉じるとねずみが隠れる。猫とねずみの追いかけっこ。ネズミが顔を出す時は、中に仕込まれた笛が「チュウ」と鳴きます。手作りでここまでの仕掛けを作れることに感心。ずんぐりとした猫の造形が味わい深いです。
「知恵の板」
正方形から切り出した7片の板を組み合わせて、3重の塔や船などの図形を完成させるパズル遊び。江戸時代の「知恵の板」という本には、41種類の図形が掲載されているようです。今でもこんな感じのパズルが知育玩具として売られているような。江戸時代からあったんですね。
「木挽き人形」
棒を押したり引いたりすると人形がのこぎりで丸太を挽きます。これ好きです。のこぎりを挽いている姿のデザイン処理が現代的。江戸時代の感覚とは思えません。インテリアとして飾れそうですね。
他にもたくさんの可愛いからくりおもちゃが展示されていました。
展示スペースから庭を望めます。庭の奥の工房棟では、制作体験教室や講演会を行っています。
この町家は、もともとは明治23年頃に建てられた「松利(まつり)」という料理店の離れでした。おもちゃが展示されているのは母屋。今は使われていないようでしたが茶室もありました。欄間には茶道具が透かし彫りされており、明治期に名声を博した料理屋の華やぎが伝わってきました。
■奈良町からくりおもちゃ館
〒630-8338 奈良市陰陽町7番地
(2021年11月撮影 機材:CANON EOS M6)